2.閾値の不透明性 3.資源供給の限界
2.閾値の不透明性
生態系の人類との相互依存性について、どれだけ需給がひっ迫したら、破滅的調整が起きるのか、その決定的なラインが知りたいと思う人がいるかもしれない。どれだけの生態系が絶滅したら、人類を含めた他の生態系も道連れにするのだろうか、と。生態学では今のところ明確な指標はないという。ならば、生態系が失われること(最近では日本ではウナギやクジラの保護が問題になっている)を心配するのはやりすぎではないかと考える人がいるかもしれない。この批判に対し、ポール・エーリックは次の寓話で答えている。
“ある乗客が、自分の乗っている飛行機の翼から機械工がリヴェット(締め釘)をぽんぽん抜いているのに気づく。機械工によれば、「航空会社がそれらのリヴェットを高値で売る」のだという。肝をつぶした乗客に向かって、「しかしそれで問題ない」と彼は断言する。「数千本というリヴェットが使われているため、飛行機から何本かなくなってもどうということはない。実際、しばらくこうしてきたが、翼はまだ落ちていないのだ」と。”
自分がこの乗客だったとしたら、一本抜くことさえ正気の沙汰ではないはずだ。しかし地球という宇宙船の上では、人間はリヴェットをぽんぽん抜いており、その頻度はますます高くなっている、とエーリック夫妻は指摘する。このように安全を後回しして利益を第一に追求する姿勢は、資本主義下の企業活動において共通して観察される。原発、金融商品しかりである。安全を犠牲にすることをリスクプレミアムと呼んで取引さえしている。
3.資源供給の限界
需要が増えるなら、それに見合うだけの供給を増やせばいいと思う人がいるかもしれない。穀物の品種改良や、革新的技術開発のおかげで、これまでも人類は生産力を向上させてきたではないか、と。物理学者アルバート・バートレットは、わかりやすい例で供給を増やせばいいという考えの問題点を指摘している。
いま1分ごとに分裂するバクテリアをビンの容器の中に入れると、1時間後、ビンの容量はプランクトンで満杯になっていたとする。さて、どの時点でバクテリアはビンの半分までに増えたのだろう?答えは、実験開始から59分後だ。つまり、容量が一杯になる最後の1分前の時点では、まだ容量が半分しか埋まっていないわけだ。次に、もしあなたがバクテリアなら、実験を始めてからどの時点で、ビンのスペースがなくなりつつあることに気づけるだろうか?59分経過の時点でさえ、ビンはまだ全体の2分の1しか満たされてない。つまり全体の50%は空なのだから、分裂し続けることに懸念を感じないだろう。この話は、倍々ペースでバクテリアは増える場合、容量が満杯になる前に気付くことは、最後の最後まで難しいことを示している。では、もし最後の一分の間に、幸運なことに新たな棲みかとなる3本の空きビンを見つけたとしたら、プランクトンの将来は安泰だろうか。実際、倍々で増え続ける限り、もう2分経てばビン4本すべては一杯になってしまう!
このプランクトンの思想実験が示しているのは、石油や水や食糧など、資源の供給は、今のペースで増え続ける需要を賄いきることは不可能に近いということだ。たとえ新たな供給源を見出したとしても、それは新たな瓶を見つけるという一時しのぎに等しく、増えた分のブランクトンが消費を増やすので、資源はすぐにまた足りなくなるということだ。バクテリアがビンの中で生き続けるには、バクテリアが増えるペースを落とす、つまりバクテリアの数を減らすことで資源に対する需要を抑えるしかない。仮に人口増加率が抑制されても、一人当たりの資源消費量が増え続ければ意味がない。しかし需要が神聖視されてきた資本主義社会において、需要を抑制するという発想はこれまで提案はされても喜んで実践されることは稀だった。企業においては一層その傾向が大きかった。これは当然のことで、なぜなら財の生産者にしてみれば需要は拡大し続けることが自身の利潤最大化にあたって最も望ましいからだ。
文責:THI002
今後も継続的に資本主義の行方に関する研究成果を発表していきます。
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